Thursday, August 19, 2010

生活

生活と人生とは違う。明石は始めて喀血した夜の酒場をふいに思い出す。同窓生たちは彼が病気の間、一度も見舞に来てくれなかった。彼が病気にかかったことさえ、たぶん知らなかったのであろう。連中はあの日と同じように今日も生活を持続しているだろう。連中は戦争に行った時、人生にふれ、人生を消耗してしまったにちがいない。俺もふたたび娑婆に出れば、どれだけ生活の中で人生を持続できるかおぼつかない。
――遠藤周作 『満潮の時刻』



生活の中に人生を見出せないのが現代の(一部のあるいは大部分の)病なのかもしれない。

でも、

人生が消耗することを、生活のせいにしたところで何も解決しないだろう。
人生は生活がなければ成り立たない。

いのちがなければ、その意味なんて。

人生にばかり目が眩んで、生活が見えない。
いま、私に必要なのは、人生よりも、生活に違いない。

生活を成立させていれば人生がどうであろうと、合格。
人生を追求して生活が儘ならぬなら、人間失格。

そういう世の中だから。

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